中日関係の緊張とインバウンド停滞下におけるSNSマーケティング戦略
公開日:2025年11月26日
―― 旅行できない今こそ、「将来の訪日」のために公式アカウントを育てる ――
■ エグゼクティブサマリー
- 中日関係の緊張により、インバウンドが構造的に細り、従来の KOL/Blogger 施策だけでは「来店・宿泊」に直結しにくくなっている。
- 「今すぐの来日」を前提とした ROI ではなく、「次に日本へ行くときの候補として想起され続けること」へ目的とKPIを切り替える必要がある。
- 小紅書と微信视频号の公式アカウントを軸に、長期的な存在感の刷り込みと「将来の訪日需要」に備えた情報・感情の蓄積を行うことが鍵となる。
■ 1. 序論:なぜいま、KOL/Blogger 施策の手応えが薄いのか
ここ数年の中日関係の緊張は、政治・外交のニュースに留まらず、訪日中国人観光客(インバウンド)の動きにも大きな影響を与えています。
その結果として、これまで
「KOL/Blogger が日本体験を紹介 → ファンが日本に旅行 → 店舗や施設で消費」
という形で成果を上げてきた多くの日本ブランドが、
- フォロワーの反応は悪くない
- コンテンツの再生数も出ている
- しかし 実際の来店・宿泊・来日が伸びない
というギャップに直面しています。
本レポートでは、
- なぜいま、KOL/Blogger コラボの成果を感じにくくなっているのか
- インバウンドが停滞する局面で、日本ブランドは何を優先して積み上げるべきか
- 小紅書と微信视频号の公式アカウント運用を、「今」と「将来の訪日」の両方に効く戦略としてどう設計するか
を整理していきます。
■ 2. 構造の変化:中日関係とインバウンド減少がもたらしたもの
多くの日本ブランド、とくに
- 旅行・ホテル・商業施設・テーマパーク
- ドラッグストア・百貨店・家電量販店
- 体験コンテンツ・観光地・地方自治体
などは、訪日中国人観光客の来店・来館・宿泊・体験を前提にしたビジネスモデルを構築してきました。
中日関係の緊張により、
- 一部ユーザーの「日本旅行を控える/先送りする」動き
- 団体旅行や特定ルートの制限、心理的ハードルの上昇
- 日本側でもインバウンド予算や体制の見直し
が進み、「日本へ行く」こと自体のハードルが上がっている状況です。
つまり、かつてはごく自然に機能していた
SNS で日本を見て → 行きたいと感じて → 実際に行く
という一連の流れが、構造的に細くなっているのです。
■ 3. 従来モデルの限界:「紹介しても、来られない」という現実
これまで多くの日本ブランドが成功してきた KOL/Blogger 施策は、
コンテンツが「日本に来るきっかけ」になること を前提としていました。
「日本に来たら、このホテルに泊まりたい」
「次の連休には、この商業施設でまとめ買いしたい」
「このドラッグストアで、動画で見た商品を探してみたい」
といった 「旅行とセットになった購買行動」 が成果の中心だったからです。
しかし現在は、
- 来日という最終ステップが、簡単には動かない
- そのため KOL コンテンツを見ても、「すぐには行けない」ことが前提になってしまう
結果として、ブランド側が期待する
- 予約
- 来店
- 宿泊
- 現地での購買
までつながりにくい、という構造的な問題が発生しています。
つまり、コンテンツの質やKOLの影響力以前に、「旅行できない」という根本条件でブレーキがかかっているのです。
■ 4. 戦略の転換:「今すぐ来られない」前提で、何を目的に発信するか
インバウンドが伸びにくい局面で、KOL/Blogger 施策の ROI が下がるのは自然な流れです。
ここで重要なのは、
「だから何もしない」のではなく、「目的とKPIを変えて積み上げる」
という発想に切り替えることです。
4-1. 目的を「即時来店」から「将来の訪日候補」に
短期的な来店・予約・宿泊が伸びにくい局面では、SNSの役割を
- 今すぐの売上をつくる手段 から
- 「次に日本へ行くとき、思い出してもらうための種まき」 へ
と再定義する必要があります。
4-2. 「长期刷存在感」という考え方
中国のユーザーは、次の旅行先やショッピングリストを、
- 小紅書で検索し、気になる店・商品・施設を「收藏」
- 微信でフォローし、日々の投稿をなんとなく見る
- SNS の中に「いつか行きたい日本」のリストを持つ
という形で、長期間かけて蓄積しています。
この「まだ行けないけれど、いつか行きたい」という時間を、ブランド側から見れば、
「存在感を刷り込み続けるための貴重な期間」 と捉えることができます。
だからこそ、いま優先すべきは
- 単発の KOL 露出ではなく、公式アカウントで 静かに・長く・繰り返し現れること
なのです。
■ 5. 小紅書公式アカウント:日本旅行の「下調べ」の第一接点
小紅書は、中国ユーザーにとって
「日本へ行くなら、どこに泊まり、何を買い、どこに行くか」
を調べるための 実用的な検索プラットフォーム になっています。
インバウンド停滞期の小紅書公式アカウントには、次のような役割があります。
5-1. 「次の日本旅行の候補」に入り続ける
- ホテル・旅館: 季節ごとの滞在イメージ、客室・温泉・朝食などを、「いつか泊まってみたい」レベルで刷り込む
- 商業施設・ドラッグストア: 店舗の雰囲気、買い物の動線、人気商品の棚などを、「来日したらここでまとめ買いしたい」と思わせる
- 観光地・体験コンテンツ: 日本らしさやローカル体験を「收藏」してもらう
5-2. コンテンツの方向性
「当たり前の日本」を淡々と見せる
- 混雑/空いている時間帯
- 店舗・施設の受け入れ体制
- 言語サポート、決済手段など
「次に来る時のシミュレーション」
- 1泊2日・2泊3日モデルコース
- 〇〇エリアに泊まる場合の選び方
- ショッピング+観光の組み合わせ提案
FAQ・不安要素の解消
- 現在の営業状況
- 治安・混雑感
- アクセス方法・料金目安
今すぐ来られないユーザーでも、「次回の日本旅行計画のメモ帳」として公式アカウントを使ってもらうことが、この期間にできる最も現実的な戦略です。
■ 6. 微信视频号:ブランドへの「信頼」と「臨場感」を積み上げる
微信视频号は、WeChat 生態系のなかで日本ブランドを継続的に思い出してもらう場所として機能します。
6-1. 役割:旅行前の「安心」と「憧れ」をつくる
视频号のコンテンツは、今すぐ来日できないユーザーに対して、
- 「このホテル/施設は今もきちんと営業している」
- 「スタッフの雰囲気が良さそう」
- 「現地の空気感が、動画から伝わってくる」
という 「安心感+憧れ」 をつくることが目的になります。
6-2. 有効なコンテンツ例
- 日本現地からの日常的なショートVlog
- スタッフ出演による施設案内・サービス紹介
- 季節ごとの風景やイベントのレポート
- 「前と変わった点/変わらない良さ」のアップデート
重要なのは、派手なキャンペーンではなく、淡々と継続することです。
「このブランドは、日本でちゃんと存在し続けている」
という印象が、将来の訪日タイミングで 「どこを選ぶか」の決め手になります。
■ 7. KOL/Blogger 施策の再定義:公式アカウントへの「入口」として使う
インバウンドが伸びない局面では、KOL/Blogger 施策の役割も見直す必要があります。
以前:
KOL の投稿 → すぐに日本へ行き、店舗・施設で消費
これから:
KOL の投稿 → 公式アカウントをフォロー・收藏 → 将来の訪日タイミングで選ばれる
という 二段階の構造 を前提に、設計し直すべきです。
- KOL の投稿内に、公式アカウントへの導線を必ず設ける
- 「今すぐ来てください」ではなく「次に日本に来る時は、ここを思い出してください」というメッセージに切り替える
- 公式アカウント側で、KOL投稿と連動した深掘り情報を用意しておく
KOL施策は、公式アカウントで蓄積している世界観にユーザーを招待するための入口、という位置づけに変わっていきます。
■ 8. 結論:観光客が戻ってくるその日のために、いま準備できること
当面、中日関係とインバウンドの状況がどのようなペースで変化していくのかを、正確に予測することは困難です。
しかし、はっきりしていることが一つあります。
観光客が戻ってきたとき、「その瞬間から選ばれるブランド」と「ゼロから思い出してもらうブランド」には、大きな差がつく ということです。
KOL/Blogger 施策だけに依存するのではなく、小紅書と微信视频号の公式アカウントで
- 長期的に存在感を刷り込み
- 「次に日本へ行くときの候補」として名前を刻み
- 将来の訪日需要に備えて情報と感情の両方を蓄積する
ことが、いま日本ブランドに求められている戦略だと、Tenman は考えています。
← ホームへ戻る