2025年版:中国ソーシャルメディアのグローバル展開
公開日:2025年12月2日
―― 「脅威」ではなく「チャネル」として、中国発ソーシャルメディアをどう捉え直すか ――
■ エグゼクティブサマリー
- 世界のソーシャルメディア利用者は約52億人、人口の約64%。ブランド認知と消費行動の両面で、依然として最重要の接点となっている。
- 中国国内ではソーシャルメディアの普及率がほぼ天井に達しており、ユーザー数ベースの成長余地は限られている。そのため、中国企業は自然と「海外(出海)」を成長源として重視している。
- TikTok を中心とする中国発プラットフォームは、アルゴリズム・ローカル運営・広告とECの統合・コンプライアンス対応を強みに、欧米・アジア・中東・アフリカの広い地域で存在感を高めている。
- 今後の競争軸は、① AIによる自動化と効率化、② 各地域の規制と文化に対する高精度なローカライズ適応の2点が中心となる。
- 日本企業にとって中国系プラットフォームは「競合」でもありながら、海外発信の重要なチャネルにもなり得る。適切な理解と距離感が、今後の成否を左右する。
■ 1. 世界のソーシャルメディア市場の現在地
2025年時点で、世界には約52.4億のアクティブソーシャルメディアIDが存在すると推計されています。これは世界人口の約63.9%に相当し、インターネット利用者に限れば9割超です。
ユーザー数の伸びは二桁成長の時代からは落ち着いたものの、年間で2,000万人以上増加しており、依然として「量的にも無視できない成長産業」と言えます。
加えて、多くの調査で、
- 「新しいブランドや商品を知るきっかけ」としてソーシャルメディア広告・投稿を挙げるユーザーが約3割
という結果が出ており、ソーシャルメディアは टीवी・検索と並ぶ、あるいはそれ以上のブランド接点となっています。
■ 2. なぜ中国企業は海外へ向かうのか
中国国内では、スマホネット利用者が10億人を超え、主要ソーシャルアプリの普及率は90%以上という飽和状態にあります。ユーザー数の伸びは年1%以下に低下し、新規ユーザー獲得によってプラットフォームを成長させる余地はほとんど残っていません。
その一方で、海外市場ではまだ成長余地があり、特に東南アジア・中東・ラテンアメリカ・アフリカなどの新興地域では「若年人口」「スマホ普及」「ソーシャル利用時間」の3拍子が揃いつつあります。
このギャップが、中国ソーシャルメディア企業の「出海」を後押ししています。
■ 3. 三つの代表的ケース:TikTok / Yalla / TapTap
中国発プラットフォームの出海モデルは一枚岩ではなく、プロダクト特性や狙う地域によって多様なパターンが存在します。本レポートでは象徴的な3つのケースを取り上げます。
3-1. TikTok:アルゴリズムとローカル運営の両輪
TikTok は、中国企業のグローバル成功を象徴する存在です。
- 世界月間アクティブユーザー:約16億
- 短尺動画と高精度レコメンドによる高い滞在時間
- 広告・EC・音楽など、多層的なマネタイズ手段を確立
ビジネスモデルは大きく、
- コンテンツ層(短尺動画・ライブ配信)
- 広告層(ブランド/DR双方をカバーする広告メニュー)
- コマース層(TikTok Shop による動画一体型EC)
の三層で構成されています。
また、米国・EUではデータ保護や安全保障上の懸念に対応するため、現地データセンターや独立した運営体制の構築など、政治・規制リスクを織り込んだ対応も進めています。
3-2. Yalla:中東ニッチに特化した音声コミュニティ
Yalla は、中東・北アフリカ地域向けに展開される音声チャット+ボードゲームプラットフォームです。アラビア語圏というニッチ市場に絞り込むことで、英語圏などのレッドオーシャンを避け、高い収益性を実現しています。
- 低帯域環境でも使いやすい音声チャット
- 地域で親しまれているボードゲームとの組み合わせ
- ギフト課金やVIP制による高ARPPUモデル
「どこで戦うか」を丁寧に選ぶことで、中国企業がローカルプレイヤーに勝てる余地を示したケースと言えます。
3-3. TapTap:開発者とプレイヤーを結ぶゲームコミュニティ
TapTap は、ゲームの配信とコミュニティを統合したプラットフォームです。
- Android 向けゲームストア+レビュー/フォーラム機能
- 「0%手数料」という明確な価値提案で開発者を惹きつける
- プレイヤーの長文レビューや開発者ログを重視した「信頼できる情報」設計
中国国内で成熟したこのエコシステムを、多言語対応の国際版として展開することで、「国内で作った構造をそのまま海外に持ち出す」タイプの出海モデルを体現しています。
■ 4. 技術トレンド:AI が変える三層構造
ソーシャルメディア領域では、AI がすでに
- 技術層(レコメンド、翻訳、音声・画像認識)
- コンテンツ層(台本生成、編集支援、アバター制作)
- ビジネス層(広告クリエイティブ自動生成、AIショッピングアシスタント)
の三層で活用されています。
特に、生成系AIの普及によって、
- 多言語コンテンツの制作コスト低下
- パーソナライズされた広告・商品提案
- 小規模チームでもグローバル展開できる環境
が整いつつあり、今後は「人間がコンセプトや方向性を決め、AIが量産・最適化を担う」分業が一般化していくと考えられます。
■ 5. 地域別チャンスとリスク(ハイライト)
中国系プラットフォームのグローバル展開を理解するうえで、地域ごとの環境差は無視できません。ここでは要点のみ整理します。
5-1. ヨーロッパ
- 高所得・高教育層が多く、クオリティ重視の消費者が中心。
- GDPR・DSA など規制が厳しく、データ保護・コンテンツ審査に高水準の対応が必要。
5-2. 北米
- 世界最大の広告市場。エンタメ・ゲーム・アニメ系コンテンツへの需要が高い。
- TikTok に象徴されるように、中国系プラットフォームへの政治的視線が厳しい。
5-3. ラテンアメリカ
- ソーシャル利用時間が長く、音楽・ダンス・コメディなど感情豊かな短尺動画が拡散しやすい。
- 決済・物流・治安などビジネス環境の不確実性があり、中長期視点での取り組みが前提となる。
5-4. 中東
- 高所得の若年層が多く、ラグジュアリー・ビューティー・自動車など日本ブランドと相性の良いカテゴリーが多い。
- 宗教・文化規範への配慮が必須で、表現ルールやタブーを十分理解したうえでの発信が求められる。
5-5. 東南アジア
- モバイル・ファーストの市場で、ソーシャルコマースの普及が進んでいる。
- 国によって規制や文化が大きく異なり、「ASEANを一括りにしない」精緻なローカライズが重要。
5-6. アフリカ
- 平均年齢が若く、長期的な人口成長が見込まれる最大級の潜在市場。
- インフラ・決済・広告主基盤がまだ発展途上で、短期的な投資回収は難しい。
■ 6. 日本企業への示唆:脅威ではなく「経路」としてどう付き合うか
日本企業にとって、中国発ソーシャルメディアは「競合」としての側面だけでなく、
- 海外の消費者へ直接リーチするためのチャネル
- 日中・アジアのコンテンツ流通構造を理解するための「インフラ」
という側面も持っています。
6-1. TikTok を「海外向けの放送局」として捉える
日本のアニメ・ゲーム・音楽・コスメ・旅行コンテンツは、TikTok 上で海外ユーザーの関心を集めやすいカテゴリです。中国企業の成功事例をなぞるのではなく、
- 日本発コンテンツの強み(世界観・品質・ストーリー)
- 対象地域ごとの文化・言語
を掛け合わせた「日本ならではの発信」を、TikTok を通じて行うことが有効です。
6-2. 東南アジア・中東では「協業」の発想が有効
宗教や制度面でハードルの高い市場では、中国企業が先行して蓄積してきたローカル運営ノウハウやインフルエンサーネットワークと協業することで、参入コストとリスクを抑えつつ足場を築くことができます。
6-3. AIは制作効率化ツール、世界観は人間が担保
生成AIを活用することで、翻訳・字幕・編集などの「作業」は大幅に効率化できます。一方で、ブランドの世界観や価値観を伝える部分は、人間が責任を持って設計する必要があります。
■ 7. まとめ:ポジションを決めてから、プラットフォームを見る
中国ソーシャルメディアのグローバル展開は、今後も続いていく長期トレンドです。日本企業にとって重要なのは、
- どの地域で、どのようなポジションを取りたいのか
- そのために、どのプラットフォームをどの深さで活用するのか
という自社のスタンスを先に定めることです。
プラットフォームの存在そのものに振り回されるのではなく、「戦略 → チャネル」という順番で考えることで、中国発ソーシャルメディアを「脅威」ではなく「経路」として扱えるようになります。
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